夏目漱石の世界にようこそ  ここには夏目漱石の文学を知る上で貴重な作品が多数収録されています。 是非ご覧になり貴重な漱石文学の神髄をお楽しみ下さい。
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収録作品
【1896年】
人生
【1901年】
倫敦消息
【1903年】
自転車日記
【1905年】
カーライル博物館
一夜
琴のそら音
幻影の盾
吾輩は猫である
趣味の遺伝
倫敦塔
薤露行
【1906年】
草枕
二百十日
坊っちゃん
落第
【1907年】
京に着ける夕
虞美人草
作物の批評
写生文
野分
【1908年】
坑夫
三四郎
正岡子規
文鳥
夢十夜
【1909年】
それから
永日小品
虚子君へ
私の経過した学生時代
満韓ところどころ
【1910年】
思い出す事など

【1911年】
ケーベル先生
現代日本の開化
手紙
文芸と道徳
【1912年】
行人
彼岸過迄
【1913年】
模倣と独立
【1914年】
こころ
私の個人主義
【1915年】
硝子戸の中
道草
【1916年】
点頭録
明暗




文鳥 (3)

 十六になる小女こおんなが、はいと云って敷居際しきいぎわに手をつかえる。自分はいきなり布団の上にある文鳥を握って、小女の前へほうり出した。小女は俯向うつむいて畳を眺めたまま黙っている。自分は、をやらないから、とうとう死んでしまったと云いながら、下女の顔をにらめつけた。下女はそれでも黙っている。
 自分は机の方へ向き直った。そうして三重吉へ端書はがきをかいた。「家人うちのものが餌をやらないものだから、文鳥はとうとう死んでしまった。たのみもせぬものを籠へ入れて、しかも餌をやる義務さえ尽くさないのは残酷の至りだ」と云う文句であった。
 自分は、これを投函して来い、そうしてその鳥をそっちへ持って行けと下女に云った。下女は、どこへ持って参りますかと聞き返した。どこへでも勝手に持って行けと怒鳴どなりつけたら、驚いて台所の方へ持って行った。
 しばらくすると裏庭で、子供が文鳥をうめるんだ埋るんだと騒いでいる。庭掃除にわそうじに頼んだ植木屋が、御嬢さん、ここいらが好いでしょうと云っている。自分は進まぬながら、書斎でペンを動かしていた。
 翌日よくじつは何だか頭が重いので、十時頃になってようやく起きた。顔を洗いながら裏庭を見ると、昨日きのう植木屋の声のしたあたりに、さい公札こうさつが、あお木賊とくさの一株と並んで立っている。高さは木賊よりもずっと低い。庭下駄にわげた穿いて、日影のしもくだいて、近づいて見ると、公札の表には、この土手登るべからずとあった。筆子ふでこの手蹟である。
 午後三重吉から返事が来た。文鳥は可愛想かわいそうな事を致しましたとあるばかりで家人うちのものが悪いとも残酷だともいっこう書いてなかった。


底本:「夏目漱石全集10」ちくま文庫、筑摩書房
   1988(昭和63)年7月26日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版夏目漱石全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年4月〜1972(昭和47)年1月にかけて刊行





  

  
 

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  夏目漱石収録作品 (アイウエオ順)
  【ア行】
一夜(1905年)
永日小品(1909年)
思い出す事など(1910年)
【カ行】
カーライル博物館(1905年)
薤露行(1905年)
硝子戸の中(1915年)
京に着ける夕(1907年)
虚子君へ(1909年)
草枕(1906年)
虞美人草(1907年)
ケーベル先生(1911年)
幻影の盾(1905年)
現代日本の開化(1911年)
行人(1912年)
坑夫(1908年)
こころ(1914年)
琴のそら音(1905年)
【サ行】
作物の批評(1907年)
三四郎(1908年)
自転車日記(1903年)
写生文(1907年)
趣味の遺伝(1905年)
人生(1896年)
それから(1909年)
【タ・ナ行】
手紙(1911年)
点頭録(1916年)
二百十日(1906年)
野分(1907年)
【ハ行】
彼岸過迄(1912年)
文芸と道徳(1911年)
文鳥(1908年)
坊っちゃん(1906年)
【マ行】
正岡子規(1908年)
満韓ところどころ(1909年)
道草(1915年)
明暗(1916年)
模倣と独立(1913年)
(1910年)
【ヤ・ラ行】
夢十夜(1908年)
落第(1906年)
倫敦消息(1901年)
倫敦塔(1905年)
【ワ行】
吾輩は猫である(1905年)
私の経過した学生時代(1909年)
私の個人主義(1914年)